>WRITER
静まり返った空間その中で料理の音だけが響き渡っている。
「まずはこれを見てもらおう」
そう言ってゲンドウが机の上に置いたものは、
黄色い突起物があり、紅いアクセサリーを付けた、
表面積の大部分は白と黒で占められている物体だ。
そして、正面には銀のプレートが付いている。
そのプレートには「PENPEN」という文字が刻まれていた。
EPISODE:2.2 Cool it!
>SHINJI
愛敬のある小さな目。
ペ、ペンギン!?
「こいつが綾波さんとどういう関係があるんだよ?」
どこから出てきたんだという疑問もあったけど、それより父さんの意図することが解らずぼくは聞き返した。
「これは私が以前に死海で見つけたものだ」
「死海?……というとあの塩湖のですか?」
地理に疎い僕の代わりにアスカが聞き返す。
「ああそうだ」
そう一区切りした後、父さんは言葉を続けた。
「そこにはこれと赤ん坊がいた」
そこまで話せばぼくでも検討はつく。
その赤ん坊こそが彼女だったのだろう。
しかしどう見ても新雪の様な色白さはともかく顔立ちは日本人にしか見えない。
「彼女は今まで施設で育てられていたのだが、その施設を出ることになって私のところに預かって欲しいという話が来たわけだ」
まるで作り話のような内容だが、父さんの真剣な目を見ると不思議とぼくにはと父さんが嘘をついているようには思えなかった。
「できたわよ」
……緊迫した空間の中、あいかわらず母さんはマイペースだった。
>WRITER
その日の夜。
シンジはなかなか寝付くことができなかった。
2人の転校生との出会い。
そして、新しい家族。
たった2つの出来事なのに今日1日でいろいろな出来事があった。
それにもう1つシンジが寝付くのを妨害している事がある。
「だって正面の部屋が綾波の部屋なんだもんなぁ」
そんな独り言を言う。
リビングの隣の部屋は碇夫妻が使っている。
その為、自然とレイの部屋はシンジの向いの部屋になっていた。
しかも二部屋とも和室なので鍵は掛かっていなかった。
至極ふつうの少年、碇シンジは妄想という術にはまりかけていた。
……………………
コンコン。
と襖を叩く音が聞こえる。
「シンちゃん。まだ起きている?」
その声と共にシンジは妄想をかき消した。
「な、なに?」
「入っていいかな?」
「う、うん。いいよ」
シンジは少し躊躇してそう答えた。
>SHINJI
こんなに夜遅くに何の用だろう。
自分の鼓動が聞こえてきそうだ。
綾波は部屋の入り口で僕の部屋を見回していた。
「男の子の部屋にしてはきれいにしているわね」
「うん。汚くするとアスカがうるさいからね」
「へ〜、アスカね〜」
「いや、あ、あの、母さんも……」
彼女が笑っている。
ぼくは気恥ずかしくなっていた。
「えっと、何の用かな?」
このままではまずいのでぼくは話をはぐらかした。
彼女はしばらく逡巡してから話しはじめた。
「実は今日のことで誤ろうと思って」
「今日のこと?」
「うん」
ふと、今日のことを思い起こした。
>WRITER
「学校でシンちゃんに言っておけばあんなことにならなかったのに」
そう言いながらレイはその白い頬を赤く染めた。
それを見たシンジも帰ってきた場面を思い起こし頭に血が上る。
気まずい雰囲気が流れると同時に静まり返った室内は、この部屋に二人しかいないことを意識させてしまった。
頭の中で何かを話さないとまずいと思いながらシンジは混乱していた。
「あ、綾波さんは悪くないよ。ぼくとアスカが部活やっていないから早く帰ってく……」
その言葉をレイは遮った。
「ちょっと待った!」
シンジは突然話を遮られて目を丸くしていた。
「その綾波さんとかいう他人行儀な呼び方やめない?」
まだ目を丸くしているシンジにレイは続けてまくし立てた。
「あたしがシンちゃんて呼んでいるんだからレイかレイちゃんて呼んでよ」
>SHINJI
そんな無茶苦茶な。
そう思ったけど確かにこれから一緒に暮らす訳だし、理屈は通っていないこともない。
「いいわね。シンちゃん」
人差し指を立ててにっこりと微笑みながらそう言った。
アスカと違った意味で強迫されている。
「わ、わかったよ。レイ」
その一言で納得したのか。綾波さん……いや、レイは部屋に戻っていった。
結局誤りに来たはずの彼女に強迫されている。
ぼくの立場っていったい……
>WRITER
その光景を見詰める人影がいたことにシンジが気がつくことはなかった。
そして、その瞳はどことなく悲しい、紅い色をしていた。
少し前、シンジの隣の部屋。
つまり、壁を挟んだ先でアスカは寝付けずにいた。
アスカにしては落ち付きがない。
その原因は容易に想像できる。
しかも、ただ落ち付きがないだけでなく、何かを考えているようだ。
やがて彼女は考えがまとまったのか小さな寝息を立てて寝はじめた。
一方、碇夫妻の部屋では夫妻がビデオを見ていた。
ゲンドウは椅子に座りながら机の上に肘をつき、口元を隠すように指を組みあわせてビデオを見ている。
ユイはといえばゲンドウの左後方に立っていた。
夫妻はカード型のデータの入ったビデオを見ている。
そのテレビの画面には全部で9面の画像が映し出されている。
リビングとキッチンが2つ、夫妻とシンジともう一部屋に1つずつあとは玄関とそこから続く廊下、そしてシンジの部屋とリビングを繋ぐ廊下の映像のようだ。
このマンションの一戸、そのほぼ全域をその視野に治めている。
ビデオを早送りするとやがてレイが入ってきた。
今日の映像のようだ。
どうやら彼女は届いたばかりの荷物の整理を始めた。
女性の荷物にしてはそれほどの量ではない。
その光景をしばらく見ていた2人だが、再び三角印の二つ付いたボタンを押して目的の時間の少し前に飛ばした。
まもなくシンジが帰ってくる時間である。
再生され始めたところでユイは初めて口を開いた。
「あなた、鼻の下が伸びてるわよ」
位置関係、そしてゲンドウの体制からいって判るとは思えないが押し黙ってしまったところから察する事はできる。
やがてシンジの帰宅からの映像が映し出される。
「シンジめ、そこまで来たら押しの一手だろうが」
「あなたの押しは強かったですからね」
ボソッと言ったユイの言葉でゲンドウは完全に黙した。
ゲンドウとユイは予定と違う。そんなビデオの内容にそれでも満足していた。
>SHINJI
「……ジ、シンジってば」
ぼくはいつもと何か違うなと思いながら目をゆっくりと開けた。
目の前に見える黒い瞳、そして少し茶色みを帯びた黒い髪。
「……母さん」
「ほら、早く起きなさい」
「あれ、アスカは?」
「アスカちゃんは父さんと話をしているわよ」
アスカと父さんが……珍しいな。
ぼくが寝ぼけながらキッチンに行くとペンギンが焼き魚を食べていた。
違和感を感じるのはぼくだけだろうか。
すでに制服に着替えたアスカが父さんに耳打ちをしている。
その父さんの口元から笑みがこぼれている。
ぼくはその笑みを見て背筋に悪寒が走った。
『何かが危ない』そう感じたぼくはその場から逃げるようにキッチンと隣接している洗面所に入った。
低血圧のぼくは朝に弱いので起きてからすぐに顔を洗う。
洗面所に置かれた歯ブラシを見ると家族が一人増えたことを実感する。
>WRITER
シンジがいくらかすっきりした顔でキッチンに戻ると、
「おふぁようございま〜す」
と言いながら水色のパジャマを着たレイが寝ぼけつつキッチンに入ってきた。
片目を擦りながら目をやっと開けているようだ。
どう見てもシンジと同じく朝に弱い。
ユイはすでにシンジとレイを起こす前に準備しおわっていたであろう朝食を並べていた。
レイもそのままシンジと交代で洗面所へと向った。
「あ〜〜っ」
そのこえはシンジが今出たばかりの洗面所から聞こえた。
これから椅子に座ろうとしていたシンジは上半身を再び洗面所に向ける。
「どうしたの?」
シンジが顔を向けた先ではレイが髪を押さえていた。
「な、なんでもないよ。あはは……」
>SHINJI
その日の朝、僕たちは3人で登校した。
今日は多少の余裕がある。
たぶん校内No1,2となった2人を連れて歩いているため周りの視線が痛かった。
校門に差し掛かった時
「シーンージくん」
そんな声が後ろから聞こえたかと思うと突然抱き付かれた。
ぼくがビックリしながら頭を振り向かせるとそこにはカヲルくんの顔が合った。
「カ、カヲルくん」
突然カヲルくんはぼくの耳に息を吹きかけてきた。
ゾクッと朝感じた悪寒と違ったものが背中を走り抜ける。
ぼくが次の行動を起こす前にアスカが動いていた。
「あんた達なにやってんのよ!」
目の前から靴底が迫ってくる。
ソバット!
ぼくの目に火花が散った。
な、何でぼくまで……
倒れながらぼくはこう思った。
アスカ見えてるよ……