back to triton 2-2   第参話 それぞれの思惑

>WRITER
昨日は早く帰ってしまった為、レイやカヲルの周りには質問を抱えたクラスメートが集まった。
当然、シンジとアスカもその集団に囲まれる。
クラスのほぼ全員が集まっていた。
その集団の先頭にマイクを持ったケンスケが立っていて、トウジはその横で秘書のように手帳を開いてシャーペンを持っていた。
もっともトウジは格好だけでケンスケはディジタル録音している。
そのケンスケがおもむろにマイクをカヲルの前に差し出す。
そして、日頃と違った口調でケンスケは話し掛けた。
「えー、貴方は校門の前で碇シンジに抱き着きましたね」
まるでどこかの芸能人に質問する記者のようだ。
「はい」
実にさわやかな笑顔でカヲルはそう答える。
実際には抱き締めて耳に息を吹きかけていたのだが……
「それは彼に対して好意を持っていると考えてよろしいのでしょうか?」
「ええ」
先ほどの笑顔を上回る美しい微笑みだ。
しかし、周囲の女性陣は黙っていなかった。
「ショックー」
「碇くんたらアスカにあいそを尽かして男に走ったのかしら」
「だったらあたしが……」
と、ひそひそと話をしているのだが距離が距離である。
アスカはカヲルを殴ろうとしたがそのひそひそ話が聞こえてしまい、やきもちを焼いているようで手が出せなくなっていた。
「それでは質問を変えまして」
そう言って今度はマイクをレイの前に差し出した。
「えー、貴方は今日、碇シンジと一緒に登校しましたね」
「は、はぁ」
レイはこの展開に唖然としているようだ。
「なぜでしょうか?」
「一緒に暮らしてますのから……」
再び教室がざわめき出す。
「ウッ……うらぎりも〜ん」
「そ、そんな……まさか、碇くん実はりょうと……」
先ほどまでの視線より冷たいものがシンジへと突き刺さっていく。
「ちょっと、ホームルームが始まるわよ!」
ざわめきを止めたのはその場に集まっていなかった、ただ1人の人物洞木ヒカリだった。
やがて全員が席へと向かう。
さすがに委員長だけあって信頼感と統率力は高かった。
しかし、ざわめきを止めた理由はあるいはアスカへの助け船だったのかもしれない。
まもなくミサトが現れ結局シンジは誤解を解く間もなく1限の授業、体育が始まってしまった。

>SHINJI
体育の授業は加持先生が教えてくれている。
全員が縦2列で横向きの身長順に並んだところで先生が話し始めた。
「今日はサッカーを行う」
「それじゃあ今日は出席番号順に分かれてくれ」
ケンスケは男子の中ではぼくの前の番号なので別のチームになる。
もっとも前からケンスケはぼくの前で昨日からレイが間に入っただけだけで特に変わりはない。
トウジも向こう側になる。
カヲルくんがぼくの方のチームに入った為にカヲルくんより後はチームが逆になった。
チーム分けされた後ポジションを決めるんだけどぼくのポジションはいつも決まっている。
傾向として目立とうとしたり上手い人はフォワードに行って、ぼくみたいに地味で下手なのはディフェンダーに回ることになる。
ちなみにトウジは前者、ケンスケは後者だ。
上手くて自重するする人は得点を入れることよりゲームを作ることを楽しんでミッドフィルダーをやることが多い。
そんなことを簡単にカヲルくんに説明したところでゲームが始まった。

>WRITER
先行はトウジたちのチームからだった。
「よっしゃ〜、攻めるで〜」
元気だけが取り柄のトウジの掛け声で相手チームが攻め込んでこようとしていた。
……元気だけが……その言葉の通り味方を勢いづけるトウジだが、実は運動は得意とはいえない。
むしろ苦手だった。
しかし、この都市はできてからそれほど経っていないのでこの学校の歴史もそれからになる。
つまりは部活の歴史もないに等しい。
その為、サッカー部の部員といってもそんなに極端に上手いわけではないし、人数も少なかった。
だからトウジのようにサッカーがあまり上手くなくてもやる気があれば活躍できた。
そのトウジの足元に影が重なる。
ボールはトウジの足から離れ、その影へとついていく。
そして影は立ち上がった。
日の光に晒されて銀色の髪が綺麗に輝いている。

>SHINJI
あれ?
ぼくはさっきまでカヲルくんがいた隣りを見た。
……いない!?
再び前に視線を戻す。
集まってくる相手のチームの選手を右へ左へとワンフェイントで躱していく。
そしてキーパーも躱してボールはネットへと吸い込まれる。
ぼくはいつのまにか彼に見蕩れていた。

>WRITER
加持も珍しく感嘆の声を漏らす
生徒全員が相手のゴールから歩いてくるカヲルを見つめていた。
「さあ始めようか」
そう言ってカヲルはボールをセンターサークルの中央に置いた。
見つめていた彼らがふと我に返る。
そんな彼らはなんとなく男に見蕩れていた事が恥ずかしく感じ、ごまかすように慌てて自らのポジションに戻っていった。
そして加持先生の合図で再び試合が開始される。
その後カヲルが手を抜いている為かほぼ対等の戦いを繰り広げていた。
点差は1点、シンジ達のチームが1歩リードしていた。
後半も残り少しで、ここで1点取れば同点にできる。
何よりもこのまま負けたらカヲル1人に負けたようで嫌だ。
そんな思いを込めながらトウジ達のチームは全力で攻撃していた。

>SHINJI
ぼくがゴール前に立っているとトウジがぼくの方に正面からやってきた。
ここでのミスが負けに繋がることくらいぼくでもわかる。
逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、逃げちゃ駄目だ、……逃げちゃ駄目だ。
トウジがシュートをしようとする。
ぼくはシュートコースを塞ごうとした。
まっすぐボールはぼくの顔へ飛んでくる。
当たる!
そう思った瞬間ぼくは目を瞑っていた。



  EPISODE:2.3 Can you see the wall ?



でもいつまで経ってもボールが当たった感触はなかった。
まだどことなく不安な気持ちに駆られながらぼくはゆっくりと目を開ける。
目の前からトウジがやってくる。
「シンジ!大丈夫か?」
えっ?

>WRITER
シンジは訳が解らないでいた。
クラスのみんながシンジの元に駆けつけてくる。
ボールはといえばシンジの前をゆっくりと前方に転がっていた。
「どうしたの?」
「ボールが顔に当たったやろ」
まだシンジには何が起こったか理解できていない。
そんな所に加持がやってきた。
「大丈夫かい?シンジ君」
「はぁ」
なにがなんだかよく解ってないシンジには曖昧な返事しかできなかった。
「少し混乱しているようだね、休んでいるといい」

>SHINJI
「は、はい……」
痛くもないのに休む必要はないんだけど混乱してるのは事実なので少し休むことにした。
確かにボールはぼくの方に向かってきた。
当たった感触はない。
でも、みんなが言うには当たったらしい。
どうなってるんだろう?
……訳がわからないや
「シンジくん」
「えっ」
「授業終わったよ」
いつのまにか下を向いていた顔を上げるとそこには微笑みを浮かべるカヲルくんの顔があった。

>WRITER
次の授業、黒板には様々な数式が書いてある。
しかし、老教師はいつものように授業とまったく関係のない話をし始めた。
「あ〜、このように人類は科学の発達とともに爛熟した文明を謳歌してきましたが、全てが灰燼に帰す時がやって来たのであります。20世紀最後の年、宇宙より超高密度の隕石が飛来、南極に激突しました。そしてその莫大なるエネルギーは氷の大陸を一瞬にして溶解させたのであります。海洋の水位は20mも急上昇し、干ばつや洪水、噴火など異常気象が世界中を襲いました。ある国は経済恐慌となり、またある国では内戦が起こり、わずか半年の間に世界人口の半分が失われてしまいました。これこそ世に言う『セカンド・インパクト』であります。かくして我々の文明は振り出しに戻り、再び第一歩から踏み出す事を余儀なくされたのであります。だが、あの『セカンド・インパクト』から15年、僅か15年で私たちはここまで復興をとげることができました。これは私たち人類の優秀性もさることながら、皆さんのお父さん、お母さんの世代の血と汗と涙の努力の賜物と言えるでありましょう」
生徒のみんなもいつもの事なのでうんざりした表情で授業を聞いているフリをしていた。
シンジはさきほどの一件の事をまだ考えている。
委員長のヒカリも他の生徒よりまじめに受けているように見えるが内心は同じだった。
ただ一人そんな事をまったく知らないレイはまじめにノートに写し取っていた。

>SHINJI
今日の最後の授業、ミサト先生がふと思い出したように最後にこう付け加えた。
「来週はテストだからみんなちゃんと勉強するように」
ぼくの頭にずっと残っていた今日の疑問が消え去る。
テスト……忘れてた。
ぼくはあまり頭が良くない。
いつも成績はアスカに教えてもらって真ん中より少し上くらいで、平均点より下がるとお小遣いが減らされる。
横を見てみたけどレイはあまり動じてないようだ。
その後ろではアスカがにこにこ笑ってこっちを見ていた。
そんなにぼくが苦しむのが嬉しいのかな……

>WRITER
帰り道
レイがテストの事をシンジに話し掛けていた。
「ねえ、シンちゃん」
「なに?」
「ここの学校のテストって難しいの?」
シンジは言葉に詰まった。
「シンジにとってはね」
アスカが要らぬ茶茶を入れる。
そのアスカには昨日まであったレイに対するトゲが薄れているように感じられる。
そればかりでなくどことなく余裕の様なものまで感じられた。
シンジはといえばただ曖昧な笑みをもらすだけだった、

>SHINJI
マンションの扉の前でぼくとレイはアスカと別れた。
キッチンを通り過ぎ、ぼくは自分の部屋に戻る途中で違和感を感じた。
ぼくんちの廊下ってこんなに長かったっけ?
そして、正面にもう一つの疑問が現れた。
正面に現れた疑問それはアスカだった。
あれ?さっき……
後から来たレイがリビングの入り口で止まっている僕に声をかけてきた。
「どうしたの?シンちゃん」

>WRITER
リビングに顔だけを出したレイはシンジの視線を追った。
「アスカ!」
その視線の先にはアスカが仁王立ちで立っていた。
胸の前で腕を組んで誇らしげである。
「ふっ、驚いたようね」
二人ともただ頷くだけだった。
「実は今朝おじさまに頼んで壊してもらったのよ」
そのアスカの一言でシンジは気づいた。
「か、壁がない……」
こうして碇家と惣流家の間にあった壁は消えたのだった。


つづく


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